専門家投稿:職務・職責

                  はじめに

 この度、Coolfactory の BBS 上でコラムを掲載して頂けるということで、自分が育ってきた海上自衛隊での経験等交えて、皆さんの興味に答えられたらと思っています。

                   経歴

 昭和49年3月18歳の誕生日に海上自衛隊に入隊し、平成22年3月54歳で定年退職。36年間の海上自衛隊生活で31年間は海上勤務 (水上艦艇乗組) であり、在職中の階級は2等海士に始まり、最後は1等海尉であった。いわゆる兵から特務士官になったノンキャリア「たたき上げ」である。全ての階級を経験して勤務してきたので、それぞれの立場での気持ちも、苦しさも理解していると思っている。

 専門職種は、電測といって、レーダー・電波逆探知装置等を操作し、情報を所轄する戦闘情報中枢(CIC)である。むろん下士官時代に電測員長も3艦で8年間経験した。

               今回のテーマ「職務・職責」

 自衛艦乗組員の職務については、「自衛艦乗員服務規則」という通達があり、艦長・副長・各科長・各分隊長、分隊士(ここまでが士官)・乗組准海尉・先任伍長・警衛海曹・甲板海曹・分隊先任海曹・各員長・班長・各科員(下士官と兵)等の事細かい職務及び職責について記載されている。これにより、日常の職務を行う場合に準拠すべき事項が定められており、雑則まで499条に規定されている。

 艦艇の責任は、全て艦艇長にあることに違いはないが、各セクションの士官が号令をかけ、これに基づいて下士官、兵は具体的なアクションを起こすことになる。艦長からの直接な命令や意図は、殆ど士官が受け、各士官から下士官のスペシャリストが号令を受け、兵を指導しながらアクションし任務遂行を支えている訳である。

 なお、記述の発散を避けるため、士官から号令を受ける下士官のトップである先任伍長と各艦艇にある先任海曹室について、話を進めていく。

 先任伍長と聞いて、興味ある方は、2005年に公開された映画「亡国のイージス」の中で真田広之が演じた先任伍長像が思い浮かぶのでは、と思いますが、結構近いものがあります。先に述べた「自衛艦乗員服務規則」には、『第424条:先任伍長は、副長の命を受け、他の警衛海曹以下乗組曹士の服務を監督し、また、曹士全般にわたる事務をつかさどる。2:先任伍長は、艦長諸点検の際は、その先導を行う。3:先任伍長は、日例会報等、諸会議に参加し、艦内業務に係る適切な意見を述べるものとする。』とあり、士官と曹士の1番のパイプ役で、艦艇の要と言っても過言ではない存在である。と言うのも、士官は、艦艇長を含め1年から2年で転勤するが、曹士は3年から5年を同じ艦艇で勤務する。私は、8年3ヶ月同じ艦に乗組したことも、11年8ヶ月同じ艦に乗組したこともある。そうなると、その艦の主であり、事あるごとに先任伍長からも、意見を求められたものである。

艦艇にある先任海曹室とは、各分隊・職種の下士官のトップ、曹長又は1曹から選出された先任海曹約10名から15名で (現在は艦が大きくなり職種も増加し人員も増えている。) 警衛海曹・各分隊先任海曹・甲板海曹・掌帆長等で構成され、曹士の規律・風紀に関すること、行状把握、日課の施行、艦内の整備・外容の整斉・整理整頓、身上把握、内務の円滑な遂行等多岐にわたる艦内生活の指導監督を、先任伍長を補佐する立場として、現場で実施する。そのため、各係海曹を(教育訓練・訓育・体育保健・福利厚生・保全・安全等)兼務し、各職種では○○員長として職務を遂行することになる。もちろん、各員長の下には、班長がいて、班員の生活指導や、身上把握を補佐してくれるのではあるが...。  こうして記述するだけで、上級下士官の職責は結構なものだと感じられると思われるが、先に述べた通り、それら全てのオペレーションも艦内生活も、責任は艦艇長にある訳である。そのため、命令を出すのは艦艇長であり、その下の者は、号令官でなければいけないのであるが、適時適切な号令を発する事が出来ないだけでなく、命令を出そうとする士官がいたり、士官とのパイプ役になりきれない上級下士官がいて、一枚岩で動く精鋭な部隊が、完全な状態で構築できていない状況が見られるのではと思っている。

先任伍長と先任海曹は、艦長という神輿を担ぐ先方であり、キャリア組とノンキャリア組との価値観の違いを埋めて、乗組員が誰ひとり欠けることなく、担ぎ手になるよう調整する先導役に徹してもらいたいと思う。そして、サラリーマンでは無い、国民の負託に応える海の防人として、献身の心を忘れることなく、日々の厳しい環境を克服して欲しい。

『本気で取り組めば、知恵と工夫が出る。中途半端だと愚痴が出る。ええ加減だと言い訳ばかりになる。』 自分の乗組む艦艇が、知恵と工夫が出る艦艇にしてくれることを切に願っている。 (了)

By:永遠の防人(トワノサキモリ)