専門家投稿:私の思う自衛艦乗組員の基本と伝統の継承

 海上自衛官の主たる勤務場所である海上に浮かぶ艦は、陸上の生活に比べ「危険な要素」が多く、まして、燃料・弾薬等危険物の上で寝起きしながら、危険物を取り扱い作業している訳で、艦の戦闘能力、情報処理能力、居住性、安全対策等格段に向上改善されていても、変えてはいけない基本的な部分が当然ある。まず、一般の商船と違い、戦闘する事を目的として、建造された艦であり、究極の任務は全能力を最大限駆使し、『戦闘に勝利する』ことにある。この「戦闘」ということは、乗員にとって最大の危険であり、ひとりの規律違反、手抜き、不注意が致命的被害を生起させる要因となる。そういうことに、意識をもって勤務している乗員が少なくなっているのでは、と感じるのは私だけ  でしょうか?

 基本としての、躾、各種安全守則、礼式等職種に関係なく、全ての乗員が不可欠な基本事項として確立すべきことが、周知徹底されていないのでは、と感じている。ある機会に、目にした風景であるが、交通用桟橋にある双係柱 (ボラード) に安易に腰掛け、座れない者が桟橋の上に座り込んでいる場面である。また、制服でリュックサック (デイバック) を背負い、傘をさして歩く姿等。基本的な躾ができていないのでは、と思った瞬間である。

 次に、配置における職種別術科能力であり、階級と配置によって、知識・技量の求められる程度は異なるが、若いうちから積極的に機会を求めて、経験を重ねる事が一番必要と考える。経験することにより、作業の手順やポイントを理解でき、イメージが脳裏に残り、自己の中で到達目標が設定できる。その事により、妥協することなく、納得するまで努力に傾注出来るし、豊かな想像力と柔軟な判断力を育成できる。また、経験を重ねるということは、『勘の養成』にも繋がる。もっとも身近な例として、車の旋回径や性能要目を知らない人でも、安全且つ上手に運転できている。最初は、恐る恐る用心してハンドルを持ち、アクセルを踏んでいるが、経験を積み重ね、距離・速度を連続して瞬時に判断して処置できる様になるのである。この様に経験から『養成した勘』は、思いつきの『山勘』とは違い大きな術科技量となり、知識が知恵に変貌する要因と考える。ただし、「慣れ」が「慣れっこ」になることで、基本の軽視、手抜き、手順の削除等を正当化し、ベテランの域に達したとの自己満足にならないよう、自己を戒める「俯瞰の精神」を養うことが大切と思う。

 最後に、艦はシステム化され、求められる術科技量等刻々と変化しても、旧海軍からの良き伝統 (考え方、慣習、躾、気風等) と、それを継承した海上自衛隊としての正しい伝統は、受け取ったものをより良くして後世に伝える義務がある。

 私の思う一例を上げると、考え方としては、『ON/OFF のけじめ』ON にあっては全力で仕事人間になり、OFF には徹底して遊び、又は趣味を伸ばす。次に、『らしさの確立』軍隊のような縦割りの指揮系統においては、自分のすべき役割を認識した、それぞれの階級・配置における、「らしさ」が求められる。慣習としては、『艦艇に乗るより、潮・波に乗り、風を掴め』どんなに科学技術が発達しても、自然にはかなわない。同じ条件・環境で操艦できる日は、365日1日もないので、自然を活用出来るように、研究し実践する事で極みに到達するよう努力せよ。躾としては、『艦の士気・練度の尺度は舷門、規律の練度の尺度は旗』舷門とは、家でいうところの玄関であり、舷門の立直態勢・対応状況・整理整頓状態等を見れば、一目瞭然である。また、日常的に翻る国旗、自衛艦旗、指揮官旗及び不在旗等の、旗のちぎれ、色あせ、汚れ等が注意力の欠如を表し、乗員の神経が行き届いているか伺える。気風としては、士官と曹士の関係としては『士官は首から上のこと、曹士は首から下のこと』一蓮托生の艦にあっては、互いに信頼し合える関係の構築、すなわち誠実さと責任感であり、与えられた職務、配置で職責を全うし、正しい命令と理性ある服従により、相互に安心して命を預けられる雰囲気が生まれることだと信じる。

 一部の基本と思われる事項を書き連ねたが、艦艇内の目指す所は、忠告、進言、時には諌言が口に出る程の、風通しの良い部隊づくりである。ただし、明るい雰囲気で、何でも話し合える仲良しクラブを作らないように、また、部下が間違ったことをしたり、やるべき事をしなかった時等は、毅然とした態度で叱り、正しい方向に導く事の出来る関係を育成して、良き伝統の継承者になってくれることを願う。

By:永遠の防人(トワノサキモリ)