専門家投稿: 米国側が抱えてきた「在韓米軍撤退」のシナリオ

 近く予定される米朝首脳会談を前に、在韓米軍撤退問題が重要なテーマとして浮上してきました。

 今回は在韓米軍撤退問題を正面から取り上げ、米国がどのような考え方を持っているかについてご紹介したいと思います。

 5 月 3 日のニューヨークタイムズは、朝鮮戦争の「平和協定」が締結されれば在韓米軍の扱いがテーマとなるのは確実として、トランプ大統領が規模削減の検討を指示したと伝えました。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を支える文正仁(ムン・ジョンイン)大統領統一外交安保特別補佐官も米国の外交専門誌に、在韓米軍の駐留は不要とも受け取られる論文を寄稿しています。

 マティス国防長官も、在韓米軍の扱いが米朝間の議題になることを認めています。

 トランプ大統領は、4 月に会談した安倍首相に対しても在韓米軍削減の可能性を提起し、安倍首相は懸念を表明したと伝えられています。

 こうした一連の動きに対して、ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官は「大統領からそのような指示は出ていない」と火消しに躍起ですが、実は北朝鮮側にもそうした動きを裏づけるような金正恩朝鮮労働党委員長の言動が見られるのです。

 金正恩委員長は 4 月初めまでに訪朝したポンペオ米中央情報局 CIA 長官(現国務長官)に、在韓米軍の撤退を求めなかったと言われています。また金委員長は、3 月 5 日に会見した韓国の特使団にも米韓合同軍事演習が例年と
 同じ規模なら受け入れると表明しました。

 これに対して中国は、朝鮮戦争の休戦協定が平和協定に転換されれば米軍を主体とする国連軍の役割はなくなると指摘し、在韓米軍の存在意義も減少すると主張しています。

 そこでまず、1953 年 7 月の朝鮮戦争の休戦に伴って編成された国連軍について説明しておきたいと思います。国連憲章の手続きを一部省略して編成されたことから、正規の国連軍とはみなされず、朝鮮国連軍という呼び方もされています。

 国連軍の司令部は韓国にあり、18 カ国(オーストラリア,ベルギー,カナダ,コロンビア,デンマーク,フランス,ギリシャ,イタリア,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,フィリピン,韓国,南アフリカ,タイ,トルコ,イギリス,米国)で編成され 400 人の国連軍要員が勤務しています。戦闘部隊の主力は米軍です。

 また、国連軍後方司令部は東京の横田基地にあり、こちらは 9 カ国(オーストラリア,イギリス,カナダ,フランス,イタリア,トルコ,ニュージーランド,フィリピン,タイ)で編成され、日本政府はこの 8 カ国と国連軍地位協定を結んでいます。84 カ所ある在日米軍基地のうち大きなもの 7 カ所(横田、キャンプ座間、横須賀、佐世保、嘉手納、普天間、ホワイトビーチ)が国連軍基地に指定され、国連の旗が翻っています。

 一方、在韓米軍は総兵力 25000 人。内訳は、陸軍 17000 人、空軍 80 機などとなっています。

 これだけの兵力のかなりな割合が削減されたり、全てが撤退することになれば、米国の軍事戦略が崩れるのではないかと懸念する向きもあると思いますが、米国はそれほど深刻には考えていないフシがあるのです。乱暴な言い方をすれば、あればよいが、別になくても構わない、といった位置づけなのです。それは日本の 6 分の 1 にしかならない駐留米軍経費負担の少なさに加え、韓国国民の反米的な言動に辟易しているからです。

 むろん、場合によっては米国が韓国を突き放すような態度を見せることができるのは、日本との同盟関係があるからです。

 軍事力としての自衛隊は、ドイツとともに自立できない構造に規制されてきました。これは両国の再軍備の時、国力が回復したあと敵対できないよう米国が知恵を働かせた結果です。その意味では、同じような軍事力で守り合う関係ではありませんから、非対称的な同盟関係と呼ばれます。

 しかし、日本はほかの同盟国が果たせない重要な役割を担っています。日本列島に置かれた 84 カ所の米軍基地は、アフリカ南端の喜望峰までの範囲で米軍の行動を支え、ロジスティクスにしても米軍で 2 番目と 3 番目の規模の燃料貯蔵施設が置かれているほどです。こうした能力の提供は、ほかの同盟国にはできないことです。

 会社にたとえれば、英国、ドイツ、韓国などが支店か営業所なのに対して、日本は本社機能が置かれている戦略的な拠点なのです。この日本列島を、日本は自国の国防と重ねて守っているのです。

 日本列島はアジア大陸から海で隔てられているばかりか、ロシアや中国が外洋に展開する場合に必ず通らなければならない 4 つの海峡(宗谷、津軽、対馬、宮古)を扼する位置にあります。しかも、工業力、技術力、経済力で世界トップレベルの国ですし、なによりも反米感情が存在しないに等しい。

 だから米国は、日本列島を自分の国と同じ位置づけで考えているところがあります。オバマ大統領が習近平国家主席に対して「中国は米国と日本が特別の関係にあることを理解すべきです」といったのは、それが理由なのです。これを見れば、日本が最も対等に近い、つまり双務性の高い同盟国だとわかるでしょう。

 そこで在韓米軍の撤退問題ですが、米国は少なくとも冷戦終結後、場合によっては撤退することを検討してきたことは確かです。そうしたシナリオが公表されることはありませんが、輪郭が姿を現すことがあります。

 例えば 2011 年 4 月 6 日、米国の Web 軍事専門誌『スモールウォーズ・ジャーナル』に、国防総省の 2 人の高官が匿名で論文を書き、話題となりました。緊縮財政をテーマにしたもので、タイトルは「2022 年ーー緊縮時代の国防」。

 その中で目を引いたのは、各国から駐留米軍を撤退させる一方、日本だけは再編強化する方向で、日本列島から中国と向き合っていくとされていた部分、そして韓国からは米軍が撤退し、2022 年には軍事顧問団しか置いていないとされていた部分です。

 在韓米軍が撤退しているというのは、とりもなおさず北朝鮮がソフトランディング(軟着陸)した場合を意味しており、今回の動きを先取りした印象さえありました。

次号をお楽しみに。

ーー小川和久

1057f27b654240558e109b95151ef1c6_1.jpg

6c43a0b274244090bb3120027cc0d0f2_2.png

在韓米軍基地は、右図のように整理統合された