専門家投稿:海上自衛隊艦艇乗組員の家庭環境

 今回は少し視点を変えて、昔のCMにあった気がする「亭主元気で留守が良い!」又は「子供の教育から、家のこと全て母親任せの、母子家庭!」等、色々と噂の多い家庭環境ですが、実のところを理解して頂きたいと、このテーマとする。

 艦艇の平均的な出港日数は、年間220日前後 (20年前で今はやや多くなっているのでは・・・)、それに加えて、母港からやや離れた造船所で年次修理が約1ヶ月半の間、また、4年に1度は(今は5年間隔で約8ヶ月) 定期検査で約半年間は、週末が上陸日であれば帰宅出来る。(母港近くの造船所の艦艇もあり、その場合、家から上陸日は通勤) それに加えて、下士官でも4日に1日の艦艇での泊まり当直、CPOの先任海曹であっても、6日に1日の当直が、年間を通じて決められており、出港日に当直が当たれば幸運だが、運の悪いときは、出港前日に当直して、入港日に当直の巡り合わせもある。また、休日・祝日に当直大当たりや、連休の真ん中が当直になる等、艦艇乗組みの特別職国家公務員は、一般的な公務員や会社勤めの人とは、相当に、かけ離れた勤務体系であるといえる。このような勤務体系を考えると、前に執筆した命に関わる職業の方の勤務体系は、おそらく似ているのではと思うが、艦艇乗組員は、海での生活がプラスされる分だけ、家に居る時間は極端に少なく、また、不規則である。

 概略の勤務体系を理解して頂いた所で、艦艇乗組員の必ず経験することで、一般的には考えられないことをひとつ述べると、台風が接近して、母港が地域的に危険と予想されても、総員に帰艦命令が下令され、艦を安全な海上に荒天錨泊させて、艦内で荒天対策しながら台風の通過を過ごし、家は妻と子に対策を任せる訳である。また、近隣で山火事や洪水等の災害が発生しても、呼集が下令され、家を出て行く。私の知る所では、台風通過後帰宅したら屋根瓦3分の2が飛ばされ、雨漏りの中で子供と一晩過ごした恐怖で、家の修復が終わりしばらくの間、実家に妻が帰り別居状態という家庭があったとか、居て欲しい時に、長期間家を空ける状況に耐え切れず、離婚したという例も数件聞いた事がある。確かに今考えると、お互いに相当覚悟して結婚しないと、年間3分の2は家に居ないで、居たとしても、災害等の危険が予測される時に出て行く男は家庭的には頼りにならないのだと思う。そのために、日頃から、色々な対策をして、整備・整理整頓を心掛けて、多少のことが生起しても、泥縄的な事にならないようにしてきたつもりであるが、今更だが、妻には『感謝』である。

 そのような状態であるから、子供に対しては、寂しい思いをさせているとの負い目のような気持ちがあり、停泊中であれば、あらゆる学校行事に出席する様にしてきた。特に運動会や野外炊飯等は、日頃の鍛錬の見せ場で、自衛官の独壇場で、盛り上がったことを記憶している。また、自衛官の特質すべき事として、掃除・洗濯・裁縫・アイロンがけ及び炊事まで、ある程度の家事が全て出来る事である。故に、子供のことに関しては、いらざる手を出し、妻と喧嘩になること度々であったが、自分のことに関して言えば、夏の制服 (白)、冬の制服のカッターシャツ、訓練時艦内で着ている作業服等のアイロンがけは、ほぼ自分で処理していたし、黒・白の短靴(革靴) は、妻に1度も磨かせた覚えがないし、作業服の名札・各種服装の階級章の縫付けも1度もさせなかった。余談であるが、私は趣味の延長で、調理師の免許も取得し、今流行の「海軍カレー」は、担当として作っている。自分のことは自分で対処する自己完結が、自衛官の原則であることから、そうなるのであるが、私の物だけ、別扱い的様相であったことはたしかである。

 昔から『船乗りの家庭は寂しい』と言われているが、確かに家庭人として、居る時間が少ない分、寂しい状況にはなると思うが、私は、その分を何かで埋め合わせる様に、子供達がある程度の事は自分で対処出来る様に、多少の危険を承知で、経験させる事を主眼に育てたつもりである。子供が小学生頃から、キャンプを通じて火を扱うこと、日曜大工を通じて刃物を扱うこと、アイロンがけや、掃除・洗濯・一寸した家電の修理等自分に出来る事は、子供達に経験させて、【知識が知恵として使えるようにする】ことで、自己完結できる育成を目標とし、父親としての存在を示した感がある。その事を、接着剤に見立てて、家風を作り、寂しさを感じさせない家庭を、作ってくれた家族に『感謝』である。国民の負託に応えるため、献身的な使命を遂行するには、家族の理解と後押しがなければ、成り立たないと考える。

 TVで、自衛官のお見合い番組等が放映されているのを見たが、上辺だけの理解では、到底耐えられない厳しく寂しい環境があることを承知した上で、艦艇乗組の特別職国家公務員を支えてくれる女性が居ることを願う。

By:永遠の防人(トワノサキモリ)